障がい区分認定調査で「できます」と答える前に ― 同じ状況でも、伝え方で記録はこう変わります

障がい区分認定調査

障害支援区分の認定調査で、いちばんもったいないのは「できます」で会話が終わってしまうことです。

嘘をつく必要はありません。盛る必要もありません。

ただ、同じ生活でも、伝わり方によって記録に残る文章はまったく変わります。

この記事では、調査を行う側から、実際にどう記録が変わるのかを並べてみます。

認定調査に携わる立場からの個人的な経験と、公表されている制度資料にもとづいています。所属先の見解ではありません。運用の細部は自治体によって異なります。以下の例は複数の場面をもとに再構成したもので、特定の方の記録ではありません。


なぜ「伝え方」で変わってしまうのか

認定調査には80項目の選択式の設問があり、その回答をもとにコンピュータが一次判定を出します。

しかし、選択肢に収まりきらない実情は、調査員が特記事項という文章で記録します。この特記事項と医師意見書を、二次判定(市町村審査会)で専門職が読み込み、総合的に判断します。

つまり、こういうことです。

選択肢に収まらなかった実情は、特記事項に書かなければ、審査会には届きません。

そして特記事項に書けるのは、その場で話していただけたことだけです。


【入浴】「自分で入れます」の先にあるもの

話された言葉

お風呂は自分で入れます。

このまま終わった場合の記録

入浴は自立。

調査員が重ねる質問

  • お湯の準備はどなたがされていますか
  • 洗い残しはありませんか
  • 浴槽をまたぐときはどうされていますか

話していただいた場合

入れます。ただ、お湯の温度は私が毎回確認しますし、背中は洗えていないので後から洗い直しています。先月、浴槽をまたぐときにふらついて、支えました。

このときの記録

入浴動作はおおむね自立だが、湯温設定は家族が毎回実施。洗身に洗い残しがあり家族が仕上げを行う。浴槽をまたぐ際にふらつきがあり、◯月に転倒しかけたため見守りが必要。

同じ入浴の話です。違うのは、準備・仕上げ・危険があった場面が言葉になったかどうかだけです。


【服薬】「ちゃんと飲んでいます」の先にあるもの

話された言葉

薬はちゃんと飲んでいます。

このまま終わった場合の記録

服薬管理は自立。

調査員が重ねる質問

  • お薬は誰が用意していますか
  • 飲み忘れはありますか

話していただいた場合

飲めてはいますが、私が一包化したものを毎朝渡しています。渡さないと飲み忘れることがあって、週に1〜2回は昼の分が残っています。

このときの記録

服薬行為自体は可能。ただし薬の管理・準備・手渡しは家族が実施。声かけがない場合、週1〜2回の飲み忘れあり。単身生活を想定すると服薬管理に全面的な支援が必要。

「飲めている」のは事実です。

ですが、飲めている状態を誰が支えているかが抜けると、支援は記録に残りません。


【行動面】「たまに大きな声を出します」の先にあるもの

話された言葉

たまに大きな声を出すことがあります。

このまま終わった場合の記録

時折、大声あり。

調査員が重ねる質問

  • どのくらいの頻度でしょうか
  • 一度出ると、どのくらい続きますか
  • そのときはどう対応されていますか

話していただいた場合

週に2〜3回、夕方に大声が出ます。1回20分ほど続いて、そばで声をかけ続けないと収まりません。先週は近所の方が様子を見に来られました。

このときの記録

週2〜3回、主に夕方に大声・興奮あり。1回あたり約20分持続し、家族の付き添いと声かけがなければ収束しない。近隣への影響も生じている。

行動面は、頻度・持続時間・収束に必要な関わりの3つで、記録の細かさがまったく変わります。

「たまに」は、審査会には届きません。「週2〜3回、20分」は届きます。


【意思疎通】「話はできます」の先にあるもの

話された言葉

話はできます。

このまま終わった場合の記録

意思疎通は可能。

調査員が重ねる質問

  • 内容は伝わっていますか
  • 病院の説明などはどうされていますか

話していただいた場合

短い返事はできます。でも「はい」と言っていても内容は伝わっていないことが多くて、通院の説明はあとから私が絵に描いて説明し直しています。

このときの記録

簡単な応答は可能だが、内容理解には至らないことが多い。説明の理解には、家族による図示等の補助が必要。

会話ができることと、内容が伝わっていることは、別のことです。

ここは、そばで見ている方にしか分かりません。


違いを生んでいるのは、たった3つ

4つの場面を並べてみると、記録が変わった理由はどれも同じでした。

1. 具体性 ── 何を、どんな手順で、誰が関わっているか

2. 頻度 ── 週に何回か、どのくらい続くか、いつ困ったか

3. 一人だったらどうなるか ── いま支えている手が、なかったとしたら

3つ目は、制度の考え方そのものです。認定調査は「自宅で単身生活をする」と想定して評価します。

いま家族が全部やっているから支援が不要、とは判断しません。

だから調査員は、必ずこう伺います。

「ご家族がされているのですね。では、もしお一人だったら、どうなりますか」


話す前に、1枚のメモがあると変わります

うまく説明しようとしなくて大丈夫です。整えるのは調査員の仕事です。

ただ、次のことが手元にあると、聞き取りがまったく違うものになります。

  • 1日の流れ(起床・食事・服薬・入浴・就寝)と、誰がどう関わっているか
  • 行動面・精神面の出来事と、その頻度・続く時間
  • 「先週こんなことがあった」という直近のエピソード
  • 医療的ケアの内容と回数
  • 調子の悪い日は、月にどのくらいあるか

書き方は箇条書きで構いません。日付と回数が入っているだけで、記録に使える情報になります。

本人の前で読まれたくない内容であれば、その旨を書き添えてください。別の場面で確認します。


逆に、やらなくていいこと

大げさに言う必要はありません。

話を盛ると、他の項目や医師意見書と食い違い、審査会でかえって判断がつきにくくなります。

強いのは、大きな言葉ではなく、事実と頻度です。

「とても大変です」より、「週2〜3回、20分続きます」の方が、はるかに届きます。


最後に

認定調査は、できるかできないかを試す時間ではありません。

その方が普段どんな暮らしをしていて、どんな支えがあれば安心して生活できるのかを、制度に伝えるための時間です。

そのうえで、一つだけ覚えて帰っていただけるなら。

話していただけなかったことは、記録に残せません。

調子の悪い日のこと。見守りが必要なこと。一人だったらどうなるか。外ではどうなるか。

どれも、こちらから見ただけでは分からないことです。


ここでは伝え方の例だけを取り上げました。申請の流れや80項目の内訳、区分ごとに使えるサービスなど、認定調査そのものの全体像はこちらにまとめています。
→ 〔障害支援区分の認定調査―調査員は何を見て、どう記録しているのか〕

https://shien-no-kotoba.com/?p=10

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