医師意見書と特記事項は、どう役割分担しているのか ― 調査員の目から見た「もう一つの書類」
認定調査には、調査員が作成する「認定調査票」と「特記事項」のほかに、もう一つ大事な書類があります。
医師意見書です。
「調査員が聞き取ったこと」と「主治医が書いたこと」。この2つが、どのように組み合わされて障害支援区分の判定につながるのか、実は意外と知られていません。
この記事では、調査員の立場から、認定調査と医師意見書の役割分担を整理します。
認定調査に携わる立場からの個人的な経験と、厚生労働省が公表している資料にもとづいています。所属先の見解ではありません。運用の細部は自治体によって異なる場合があります。
まず結論から
認定調査は「生活の場面」を、医師意見書は「医学的な状態」を伝える役割を担っています。
どちらも、障害支援区分の認定に必要な大切な情報です。認定調査では、日常生活の中でどのような支援が必要なのかを聞き取り、医師意見書では、心身の状態や医学的な留意点などについて医師の意見が示されます。
そして、この2つを含む情報が、一次判定・二次判定のそれぞれの段階で活用されます。
医師意見書とは何か
申請者に主治医がいる場合、その主治医が心身の状態や医学的な留意点などについて記載する書類です。
障害支援区分の認定では、認定調査の結果と医師意見書の一部項目をもとに一次判定が行われ、その後、一次判定の結果を原案として、特記事項や医師意見書の内容を総合的に勘案して二次判定が行われます。
つまり、認定調査と医師意見書は、別々に存在する書類ではありますが、認定の流れの中でそれぞれの情報が組み合わされて使われています。
一次判定で使われるのは、医師意見書の一部項目だけ
ここが、あまり知られていないポイントだと思います。
一次判定(コンピュータによる判定)では、医師意見書のすべての項目が使われるわけではありません。
厚生労働省の資料によると、一次判定で活用される医師意見書の項目には、次のものがあります。
- 麻痺(左右の上肢・下肢・その他)
- 関節の拘縮(左右の肩・肘・股・膝関節・その他)
- 精神症状・能力障害二軸評価(精神症状評価、能力障害評価)
- 生活障害評価(食事、生活リズム、保清、金銭管理、服薬管理、対人関係、社会的適応を妨げる行動)
- てんかん
医師意見書には、これ以外にもさまざまな記載欄があります。既往歴、現在の治療状況、日常生活能力、行動障害の有無など、様式には多くの項目がありますが、一次判定で活用されるのは、その中の一部です。
二次判定で、残りの情報が活きてきます
一次判定で使われなかった医師意見書の項目も、そこで終わりではありません。
市町村審査会による二次判定では、一次判定の結果を原案として、特記事項と、医師意見書の内容を総合的に勘案して審査・判定が行われます。
なお、医師意見書のうち一次判定ですでに評価された項目については、その内容だけを理由として一次判定の結果を変更することはできません。
つまり、イメージとしてはこうです。
- 一次判定:認定調査の結果 + 医師意見書の一部項目 → コンピュータによる判定
- 二次判定:一次判定の結果を原案に、特記事項 + 医師意見書の内容 → 市町村審査会による審査・判定
医師意見書のうち、一次判定で活用されなかった部分も、二次判定で審査会が検討する重要な情報になります。
なぜ両方が必要なのか
理由はシンプルです。調査員と主治医では、見えているものが違うからです。
調査員は、認定調査の項目に沿って生活の状況を聞き取り、記録する立場です。一方、主治医は、診察や治療を通して、その方の心身の状態や医学的な背景を把握しています。
調査員が医学的な判断をする立場ではないのと同じように、主治医が日常生活のすべての場面を把握しているとは限りません。
たとえば、診察室では「歩ける」状態に見えても、「短い距離なら歩けるけれど、外出時には付き添いが必要」という生活上の状況までは、診察室だけでは分かりにくいことがあります。
逆に、その「外出時に付き添いが必要」という状況が、どのような医学的背景から生じているのかは、調査員だけでは判断できません。
生活の状況を聞き取る調査員と、医学的な状態を把握する主治医。それぞれの立場から得られた情報がそろうことで、審査会がその方の状態をより多面的に判断するための材料になります。
受ける側にできること
医師意見書は主治医が作成するものなので、申請者本人やご家族が直接記載することはできません。ただ、できることはあります。
◆診察のときに、生活の困りごとを具体的に伝えておく
「歩けます」だけでなく、「短い距離なら歩けますが、外出時は付き添いが必要です」というように、日常生活で実際に起きていることを主治医に伝えておくことは大切です。医学的な状態だけではなく、実際の生活でどのような状況にあるのかを具体的に伝えることで、主治医もその方の生活状況を把握しやすくなります。
◆認定調査で話した内容と、大きくずれないようにする
認定調査での聞き取りと、主治医への説明の内容が大きく食い違うと、審査会で状況を確認する必要が生じることがあります。話す内容を完全に統一する必要はありません。ただ、同じ生活の実情について、それぞれの立場から話しているという意識は持っておくとよいと思います。
◆医師意見書の作成には時間がかかることを理解しておく
主治医も日々の診療の合間に作成するため、依頼から仕上がりまで時間がかかることがあります。必要な手続きの時期を確認し、余裕を持って依頼することをおすすめします。
最後に
認定調査と医師意見書は、別々の場所で、別々の立場から作られる書類です。
けれど、障害支援区分の認定では、認定調査の結果・特記事項と医師意見書が、それぞれの段階で活用されます。
生活の状況を聞き取る調査員と、医学的な状態を把握する主治医。それぞれの視点があるからこそ、一つの視点だけでは見えにくい状況も、審査会に伝えることができます。
「調査員が聞いたこと」と「主治医が見ていること」。この2つは、競い合うものではありません。それぞれ違う場所から、その人の状態を伝えるための情報なのです。
参考:障害支援区分に係る研修資料≪医師意見書編≫(厚生労働省)
障害支援区分の認定調査そのものの流れは、こちらにまとめています。
→ 〔障害支援区分の認定調査―調査員は何を見て、どう記録しているのか〕
特記事項に何を書くのか、同じ状況でも伝え方によって記録がどう変わるのかは、こちらの記事で具体例を紹介しています。
→ 〔認定調査で「できます」と答える前に―同じ状況でも、伝え方で記録はこう変わります〕
認定調査の結果がどのように区分の判定に反映されるかについては、こちらの記事もあわせてどうぞ。 → 〔一次判定・二次判定とは―区分はどうやって決まるのか〕


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